17.海と山

 宮内さんの面接の訓練として、伊豆松崎でカヤックの講習を受けた。山のリスクなら、僕も宮内もよく分かっている。彼女が、「自分がよく分からないリスクに対して、どう質問できるかを練習したい」という。このブログでも紹介するように、私たちの研究が一番お世話なるフィールドが、湖底の堆積物の掘削、つまりは水上での活動でもある。そこで、シーカヤックの講習を受け、それをインタビュー練習の素材にさせてもらうことにした。

 

 訓練を行った10/9は、台風こそ南方海上遠くにいるが、うねりが高まっており、波高が1.5m程度だという。最大波高はその3割増しというから、恐怖感はないが、けっこうなドキドキ感だ。訓練状況としては申し分ない。

 

 講習を依頼したのは、西伊豆コースタルカヤックのMさん。もう10年ほど前になるだろう。伊豆アドベンチャーレースの講習の時に講師を務めてくださった。今日はシーズンも終わった平日ということもあり、独り占め。しかも、アシスタントの方が二人もついてくださった。

 

 松崎からひたすら南下して、往復10kmの千貫門を目指す(したらしい)。それを2時間で往復するから、実はかなりハードだった。普段腕力は使わない僕は、往路の半分くらいでくたくたになったので、少し手を抜いて漕ぎ始めた。そんな僕を待ちながらも、なんとか目的地の千貫門をぐるっと回って戻ってきた。波間に見える富士山が美しい。

 

 今回は、宮内と相談して、2回インタビューをすることにした。どんなにスキルフルになっても、インタビューの記録のテープ起こしをすると、「あ、ここもっと掘り下げて聞けばよかった」ということがままある。自分でも理解できていることだと、うっかりスルーしてしまうのだ。ただ、そういう発言は、たいていの場合、大括りにした発言であり、そのレベルで捉えると「当たり前」のことになってしまう。その当たり前を、エキスパートが具体的にどのような情報を使い、どう判断したかが研究上は重要なのだ。そこで、最初のインタビューを聞き直して、それを元に2回目のインタビューをしてみよう、ということになった。

 

 この試みはとっても面白かった。聞き直して、大括りの発話になっているところを、「それ、もう少し具体的に話していただけますか?」と問うと、なるほどと思わせる材料と思考プロセスが出てくる。たとえば、1回目のインタビューの時には、途中で進むか戻るか少し迷ったという趣旨の発言があった。2回目のインタビューで、そこを深掘りしてみると、その迷いはもう少し前から始まっていて、そこから意志決定点までに新たな情報を探していることも分かった。

 

 具体的に話しを聞いてみると、高所クライマーや山岳ガイドのリスクマネジメントと共通する部分が沢山見つかる。選択肢を用意し、オンサイトの情報によって選択する。顧客の状況を能動的に把握する。最もリスクを高める要因を把握する。山と海という違いこそあれ、フレームワークとしては全く同じといっても過言ではない。過酷な自然環境でのリスクマネジメントの実践知はそんなところにあるのかもしれない。