59次隊に参加した時、「せっかく壮行会をやるなら、古地図でやろう」ということになって、壮行イベントをやった。「古地図」というのは、僕がこの5年ほど、年2回くらいのペースでやっている古地図(明治期の地図)を使って東京でやるオリエンテーリングのことだ。オリエンテーリングは、地図を使って目的地を見つけ、フィニッシュまでのタイムを競うアウトドアスポーツで、僕は長年選手をしてきた。最近は、そこで培ったナヴィゲーション技術を登山界などの安全確保に提供する活動をしているが、その一環としてやっているのが、古地図×東京でのオリエンテーリングだ。
最近は、ブラタモリの人気などで、古地図を使って町歩きをすることもポピュラーになりつつあるが、古地図で現代の目的地にナヴィゲーションするというのは私たちくらいのものだろう。図にも掲載したが、明治期の東京(郊外)は里山である。建物は農村集落くらいのものだし、道路も全然違っている。そんな地図で目的地にいけるのだろうか?実はこの話をすると長くなるので、ここでは「できる」とだけ言っておこう。そして、都会に居ながらにして「遭難」したり、ナヴィゲーションの達成感を味わえたり、東京に残された歴史を思わず発見したり、とにかく、そんなイベントを行った。この時は、僕が「ホスト」側でコースを用意したのだが、「ほんとは走りたいんでしょ?」とイベントの事務的な準備を全てしてくれた田島利佳さんがいうので、本音を言うと、「じゃあ、誰がやるの?」という話になった。
それを頼めるのは、大学時代からの同期で若いころは一緒に競技オリエンテーリングをしてきた、そして、僕と同じ2014年から互いに独立して古地図×東京×ナヴィゲーションをやりはじめた「野川のカルガモのおとーさん」(略してカルガモさん)くらいしかいない。他のイベント開催でも大活躍で、お忙しいとは思いつつおそるおそるメールをしたら、「そんな大事な時に頼ってくれてありがとうございます」という丁寧な返信が来た。ほんとに感謝。
そんな経緯があったので、壮行イベントができないと決まった時には、ほんとに申し訳ない気持ちになった。壮行会でないとしても、古地図×イベント自体を楽しみにくれている人は多い(ハズ)。初の人文社会系研究としてのローンチ(発進)イベントとしても価値はあるはず。オリエンテーリング・ナヴィゲーションで長年親しくしてきたSさん(選考中につき、とりあえず仮名)がこの研究のために、急遽参加予定でもあることだし、「純粋に古地図×ナヴィゲーションを楽しむイベント」「Sさん壮行会」「JARE史上初の人文社会系研究ローンチイベント」という趣旨で、引き続きお願いできないだろうかと、これもおそるおそるカルガモさんにメールしたら、返事がきた。
「11月のイベントは南極への思いを参加者全員で共有できるようなイベントにしようと準備を進めています。昔は電報で紅白を応援していた時代から、今や電子メールでリアルタイムで繋がっている世の中です。宇宙船を打ち上げてしまえば、地球からできることは限られていますが、格段に多くのことが地上からできる時代。地上からできるからこその研究成果を期待しています。」と書き込んでくれた。このイベントは、「純粋に古地図オリエンテーリングを楽しむイベント」であり、「Sさんの壮行会」であり、そして、「JARE史上初の人文社会系正式研究ローンチイベント」となった。ドナルド・キーン氏が、日本国籍を取得した時、「私のちっぽけな(日本国民になるという)望みが、東日本大震災によって社会的に意味あるものになったのです」と言ったのを思い出した。かるがものおとーさんに頼んでおいて、ほんとよかった。
ということで、11月16日は、「ファンタジスタ(村越の異名)×野川のカルガモ夢の競演」である。定員にはまだ若干名の空きがある。第61次南極観測隊参加者はご招待(参加無料)します。詳しくは、以下のサイトにて。