国立登山研修所が、高校山岳部指導者テキスト「安全で楽しい登山を目指して」を発行した。このテキストは那須岳雪崩れ遭難を契機に、高校の山岳部の安全のために作成されたものだが、日本を代表する山岳・登山の実践家・研究者が書いた充実の内容だ。
私も読図・ナヴィゲーションについての章を依頼されたのだが、割り当てページが10p。登山の全ての内容を網羅するテキストなのだから、読図・ナヴィゲーションにそれくらいしか避けないのは当然なのだが、これが難しい。だいたいナヴィゲーションのことを過不足なく伝えようとすれば200pくらいの書籍が仕上がる。むしろその分量で書いたほうが楽で、それを10pにするのは、苦行としかいいようがない。
しかし書いているうちに気付いた。確かに書き足りないところ、書き込めないから難しくなる部分もある。だが、ムズ可視からこそ考えてもらえればいいのだ。実践の中で問い返してもらえばいいのだ。そう思うと10pという制約は、自分の中で漫然と語っていたことを、整理するいいチャンスになった。副産物として、オリエンテーリングのナヴィゲーションの真髄をこの10pを元に整理してみたら、いいテキストになるのではないかというアイデアも生まれた。
隣の章の「登山と運動生理学とトレーニング」もすごい。鹿屋の山本先生自身の研究から実践までを踏まえた、充実の内容である。山本先生は、ポストに入らないほど分厚い登山の運動生理学の本を上梓されているが、きっとその本をものすごい握力で絞って10pに納めたのだろうことが、その濃密さから感じられる。
この本が高校生やその指導者の目にしかふれないと思うと、ちょっと残念に感じる。