自衛艦というと堅いイメージがある。南極観測にほぼ専属しているしらせも、 海自が管理する自衛艦であり、海外では「軍艦」の扱いを受ける。国の威容に関わるので規律が厳しく、観測隊員にも7pに渡る艦内生活のしおりが渡される。 サンダル、ハーフパンツ等のラフな格好で上甲板にあがることは許されていない。艦橋にいく場合にも、着帽が必須である。威厳を正して緊張して艦橋にいくと、意外と気さくに話しかけてくれたりする。
起床前と19時には、人員点呼がある。観測隊の当直が、異常の有無を艦橋に知らせる。などがある。当直になると、朝5:30すぎに全ての隊員居室を回って、人員確認をする。夜には巡検があって、艦内で異常がないか確認する。この際、トイレ、風呂を使うことはできない。
それでも、海上自衛隊としては例外的に民間人を長期にわたり乗せており、「自衛艦」のイメージからすると随分と意外な側面を見せてくれる。毎日、20時ごろに巡検が終わる。「巡検終わり」の後、翌日の日課が放送される。その放送が終わって、ちょっとした間のあとに「明日のおめでたい話」が放送される。
「明日は、*分隊の***さんの誕生日、おめでとう!」という呼びかけの後に、周囲で拍手とおめでとうの声が入る。乗員そのものに加えて「乗員家族のおめでたい話」が入ることもある。これを聞いて、あわてて誕生日のメッセージを贈った隊員もいるというから実利も伴っている。また一回だけ、出産の報告があった。2/28に流れた明日のおめでたい話は「今月は29日がないので、明日3月1日はステーキです(毎9日は肉の日でステーキとなっている)。
放送といえば、まだ鯨やペンギンが珍しかった12月半ばには、しょっちゅう「右右50度、1000m、くじらの群れ発見」などと放送が入る。「ペンギンが泳いでいる。泳法はバタフライ。」との放送が入ったこともある。威厳ある艦橋がお茶目に感じられる瞬間である。
変化の乏しい艦内では、日本にいるとき以上に年中行事が大事にされている。クリスマスには隊員公室の入り口にクリスマスツリーが飾られた。年末年始には門松が飾れら、「煩悩神社」のミニチュアが建立された(木製、応急工作員による手作りである)。除夜の鐘も鳴らされたとか。また、12月16日には餅つきが艦内倉庫で行われた。ずいぶん早いのは20日からは観測隊がヘリで南極に出てしまうからだろう。餅つき自身は5回ほど杵を下ろすと終わる小学校のようなイベントだが、つきたてのお餅を雑煮や様々なトッピングで食べることができた。
節分のときには恵方巻きが夕食に出た。ご丁寧に恵方が食堂に掲示されていた(写真参照)。巡検には鬼が回っていた。昭和へのヘリコプターフライトも、角を生やした鬼が運転していた。
自衛隊らしい訓練として耐寒訓練があった。このイベントは南極地域に入ってから行われるもので、当然寒い。その寒さの中、ふんどし一丁(コスチュームは任意)で、甲板を歩くものである。今年は晴天に恵まれ、無風だったため、それほどでもなかったが、50歳過ぎた身にはつらかったが、南極でふんどし一丁になった貴重な思い出である。