しらせが順調に航海したので、ヘリコプターによる輸送が1日づつ繰り上がった。12/20予定より1日早く氷河チームとともにラングホブデの雪鳥沢に飛ぶ。ラングホブデはノルウェー語で長い丸い(なだらか)丘という意味らしい。昭和基地のあるオングル島も含め、この辺りの地名の多くはノルウェー語だ。
雪鳥沢は、いかにも雪と氷に覆われていそうな名前だが、夏の間は岩や砂が露出している。こうした露岩地帯が、昭和基地の東と南西の沿岸部に広がっている。氷食によってできたフィヨルドを思わせる丘や海岸沿いの露岩は、南極というよりも早春にノルウェーに来たようだ。はじめて探検したノルウェー人たちも、懐かさを感じたことだろう(8.ノルウェー人の心のふるさと、参照)。
雪鳥沢には観測のための小さな小屋がある。氷河チームと地理院・海保連合チームとともに、この小屋で一晩を過ごした。山岳会がプライベートで作った山小屋を思わせるその小屋は、狭いながらも台所も食卓も、4人が眠れるベッドもある。少人数の調査チームで焼き肉をし、アルコールを飲み、発電機の音を聞いていると、日本の山小屋にいるかのような錯覚に陥る。暖房もあるので室温は18度。暑すぎるくらいだ。この日は人数の関係で、外にテント泊したが、揺れないし、夜中に船倉の扉を開ける音もない。極楽のようだ。
20時から、昭和基地/しらせと各地の調査チームとの定時連絡が始まる。人員装備とも異常なし、ばかりの調査チームの中で、ある調査チームでは輸送上のちょっとしたトラブルがあった。この「事件」は数日後のリラックスタイムの格好の通信ネタになった。失敗を笑い飛ばすユーモアがなければ、ここではやっていけない。
20日からはフィールドアシスタント(FA)の高村隊員と悪天候時用の退避ルートの偵察やGPS測量のために露岩を移動する調査チームと一緒に歩いた。久し振りの陸上の移動は気持ちよく、地形図を見ながら、地形を同定する作業も楽しい。等高線は万国共通だが、同じ等高線でもそれが表現する地形の様子は決して日本と同じではない。おまけに地形のスケールと肌理が分からないと、遠くに見える斜面が絶壁なのか通れる場所なのかも分からない。歩きながら自分の認識を調整していく作業が、地図読みの楽しさを倍増させてくれた。
氷河チームはこれから約40日間、この場所で氷河に熱水ドリルで穴を開けてその状態を観測する。穴を掘って氷河の中を調べる。原理はシンプルだが、そのために彼らは日々様々なフィールドワークをしている。そして夕食の時間には調査の内容は目的について詳しく話してくれる。自然科学の面白さとその面白さを引き出すための大変さ、その両方をここでは垣間見ることができる。