20. 氷海航行×艦上体育

 朝飯を抜いて朝寝していると、艦橋からの放送が、昭和基地から240マイルの流氷域の辺縁に到着したことを告げる。午後は、野外調査旅行チームへの食料配布でほぼつぶれるので、時間に余裕のある午前中に走ることにした。

 

 気温はマイナス3度。氷海に入って以来、航行スピードも落としているので、向かい風もさほど強くない。真冬のヘルシンキの早朝のマイナス25度に比べたら天国のようなコンディションだ。ウィンドシェル機能のあるミッドレイヤーを着れば、ランニング中汗ばむほどだ。

 氷海に入るまでは、走れども走れども変化のない海原が続いていた。1周250mを30分以上走るなら、さすがにIpodがないと精神的に辛かった。しかし氷海に入ると、艦の周りには刻々と変化する「景色」が生まれる。Ipodをポケットに忍ばせていったが、まったく必要がなかった。おまけに、氷海に入ると航行スピードが落ちて、航行も非常にスムースになる。地面を走っているのとほとんど同じ感覚で走ることができる。艦尾から見える船の航跡も、春の小川のようにさらさらと流れていく。せせらぐその音を聞きながら走ると、雪国の訪れつつある春を感じながら川岸を走っているかのようだった。

  

11時が近づくと、それまでのディーゼル臭の中に、カレーの匂いが香る。再び今日は金曜日。チキンカレー+メンチカツのメニューだ。